20世紀初頭から急速な発展を遂げた自動車産業の歴史を知ることは経済ビジネスの教養を深めるには最適なテーマです。
歴史から理解して未来への推測をすることは、VUCAと呼ばれる不透明なを未来を生きる一助となるはずです。
自動車産業は単なる交通手段だけでなく、常に最先端の技術を追求してきました。その結果国際情勢や経済にも大きな影響を与え続けてきました。
エンジン技術、燃料効率、安全性、自動運転技術など、自動車の進化は技術の進歩です。
今自動車産業は環境への課題で岐路に立っています。
我々の生活に近くもありながら、世界の動きに大きな影響を与え続けてきた自動車産業の歴史の理解を深めていきましょう。
【良書紹介】自動車の世界史
書籍タイトル:自動車の世界史 T型フォードからEV、自動運転まで
著者:鈴木均
発売日:2023年11月
日欧の国際政治の研究者である著者が、自動車産業の幕開けからCASEと呼ばれる大変革の真っただ中にある自動車産業の100年を各国の盛衰と技術の発展を国際関係から紐解きながら書かれています。
貴族の贅沢品から一般大衆財へ
ドイツ・フランスで発明された自動車は、当初は貴族の贅沢嗜好品でした。
実は自動車産業は軍需産業とも密接な関係があります。例えばロールス・ロイス社は第一次世界大戦中に使用された航空機用のエンジン製造もしてました。航空機エンジンの分野で高い評価を得て、世界的に有名なエンジンを多く生み出しています。
ヨーロッパから遅れて参入したアメリカですが、米ビッグ3の一角であるフォード社の大量生産により大衆車へと飛躍します。
フォード社は工場経営としても功績を残してます。大量生産だけではなく、労務管理など様々なビジネスにも影響を与えました。
また、フォード社は1929年にロシア工場を立ち上げます。今でこそ海外生産は当たり前ですが、グローバル展開の先鞭をつけたのもフォード社です。
日本の自動車産業が世界を席巻
第二次世界大戦の戦勝国のアメリカ・イギリスは当初日本の自動車生産を禁止します。自動車産業と軍需との密接な関係を考慮したからです。
しかしながら、朝鮮戦争を契機に一転規制を解きます。
今では想像できませんが、戦後の1950年代イギリスは旧植民地を中心にイギリス車を大量に輸出し黄金期を迎えていました。イギリスは日本の自動車産業の発展に大きく寄与してます。
1950年代における日産とイギリスの自動車メーカーとの関係は、技術提携を通じて日本の自動車産業に多くの影響を与え、日産が成長していく上での一翼を担いました。
具体的には、日産はオースチン社と技術提携により、オースチン社の小型車に関する技術やノウハウを導入しました。オースチン・セブン(Austin Seven)などのモデルに影響を受け、日産は自社で小型車の生産を開始しました。
これは、日本の自動車メーカーが小型車市場への進出を図る契機となりました。
興味深い事実として当時の通産省は輸入自由化による外国メーカーとの競争に備え、国産メーカーの集約と弱小メーカーの淘汰を考えてました。
しかしながら経団連の反対やホンダのF1実績などから方針を撤回します。
それから30年以上経過し、メーカー集約化は進みましたが、もし、この時期に集約していたら、今の日本の自動車産業は世界の戦いから取り残されていたと思うのは筆者だけでしょうか。
個々に競いながら、生き残りをかけた国産メーカーによる技術革新やコスト削減に向けた弛まぬ努力が今の国内自動車産業を支えているとも思います。
1980年代に入り高性能化に環境性能が大きく進み、日本の自動車産業は黄金期を迎えます。
プラザ合意以降に円高が進む中、日本メーカーの海外進出は進みます。
日本車は安全性能・低燃費などが海外市場にも認められ、北米・アジアを中心に日本車が席巻し、アメリカを抜いて世界一の自動車生産国となりGDPでも世界のトップになりました。
中国の台頭と自動車産業の先行き
安全志向・環境志向が強まる中、伝統的に大きな車に頼っていたアメリカの雄GMは2009年に経営破綻(破綻後に国有化)します。
リーマンショックを契機とする金融危機などアメリカ経済が先行き不透明になる中、それまで、自動車産業の主流から程遠かった中国が21世紀に入り急速に台頭します。
ただ、欧米日が発展したようにグローバルな競争の中で、実力を蓄え産業が成長するのではなく、中国の自動車産業は人口に裏打ちされた強大な国内需要を背景に世界一の自動車生産国となります。大気汚染が社会問題となっている中国国内においては、EVの重要性は高く政府もEV普及のための政策を着々と実行しています。IT大国でもある中国がCASEを中心とする自動車産業のゲームチェンジの潮流に乗り、これまで以上に大きな影響力を発揮する可能性は大いにあり得ます。
今後の中国の自動車産業を注視しましょう。
本書をお勧めする事由
経済・ビジネスの教養を身につけるためには、為替・貿易摩擦などの国際情勢に加え、テクノロジーと社会との関係性、アジア・アフリカなどの台頭など多岐にわたる知識が必要になります。
100年の間、全世界の産業の主流にいた自動車にまつわる世界の流れを知ることは、そべてのビジネスパーソンに未来を考えるヒントを与えてくれます。まずは本書を手に取って100年間の世界の流れを俯瞰して考えてみましょう。